
- タイトル:プライベートバンカー
あらすじ:”プライベートバンカー”…豊富な金融知識と広い人脈を武器に、富裕層相手に資産管理・資産形成の助言を行う、 マネーのプロフェッショナル。その仕事は多岐にわたり、投資やビジネスの助言から、家族間の揉め事の解決まで、『資産を守るため』何でも行う――。お金に関する目からウロコな情報満載でお届けするマネーサスペンスドラマ!
プライベートバンカー
子どもに「残してあげたい」という気持ちの、やさしい罠
子どもに何かを残してあげたい、と思う。それは親として、ごく自然な感情だと思う。できるだけ良い環境を、できるだけ多くの選択肢を、できるだけ苦労しないように。そういう気持ちが、子育てを動かしている部分は確かにある。
お金や資産を残すことも、その延長線上にある。遺産、相続、教育費、住まい。親が子どものために考えることは、つきることがない。
でも、そこに小さな罠があるかもしれない、とドラマを見ながら感じた。
ドラマが突きつけたもの
テレビ朝日のドラマ『プライベートバンカー』で、唐沢寿明演じる庵野甲一がこんなセリフを言う場面がある。
「子どもに相続できるもので、永遠の価値を持つものは二つしかない。一つはルーツである。そしてもう一つは、悪い伝統を乗り越えるための翼である」
これを聞いた資産家の父親が、ぽつりとつぶやく。「悪い伝統ってのは何なのかなぁ。私のことかなぁ」と。
お金に取り憑かれた人たちが、大切なものをどんどんわからなくなっていく。そういう姿を間近で見続けてきたプライベートバンカーが言うから、この言葉はずっしりとした重みを持つ。
「ルーツと翼」という言葉の背景
このセリフの元になったとされるのが、アメリカのジャーナリスト・Hodding Carter(ホディング・カーター)の言葉だ。1953年の著書に書かれたこの一節は、世界中で引用され続けている。
“There are only two lasting bequests we can hope to give our children. One of these is roots; the other, wings.”
(子どもに残せる、永続する贈り物は二つしかない。一つはルーツ、もう一つは翼である)
Carterはピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストで、アメリカ南部・ミシシッピで人種差別と闘いながら記事を書き続けた人物だ。彼の言葉の背景には、「家や土地のしがらみ、負の伝統に縛られてきた人間」の姿がある。
だから「翼」は、単なる自由や独立を意味するのではない。呪いや負の連鎖から、自分の力で抜け出すための力を意味している。
ドラマの庵野さんはそこに「悪い伝統を乗り越えるための」という言葉を足した。お金持ちの一族の呪いを見続けてきた人間だからこそ、翼の意味がもっと切実になっている。
「残す」が「縛る」になる瞬間
遺産や相続を子どものために考えることは、悪いことではない。でも、それが行き過ぎると、何かが反転しはじめる。
手を差し伸べすぎると、子どもは自分の足で立つ機会を失う。失敗から学ぶ前に、親がその失敗を取り除いてしまう。結果として、何もできない大人が育つ。そういう構造が、ドラマの中でもリアルに描かれていた。
「残してあげたい」という愛情が、気づかないうちに「自立を阻害する」ことになっていく。その逆説が、なんとも居心地悪く刺さった。
謙虚さではなく、意図的な引き算
だとしたら、親にできることはそれほど多くないかもしれない。いや、「それほど多くない」ではなく、「それ以上やったら害になる」という感覚の方が正確だと思っている。
土台を作ること。ルーツを伝えること。そして、翼で飛び立てるだけの安心感を育てること。それ以上は、子どもの領域だ。
これは諦めではない。意図的な引き算だと思う。甘えさせすぎない、手を出しすぎない、答えを先に渡しすぎない。その「しない」の積み重ねが、実は子どもへの贈り物になるのかもしれない。
それでも「残したい」という気持ちは消えない
とはいえ、残したいという気持ちは消えない。それも本音だ。安心して暮らせる環境を整えたい。苦労させたくない。そう思う自分もいる。
その気持ちを否定する必要もないと思っている。ただ、「残す」ことと「縛る」ことの境界線が、思ったよりずっと曖昧なのだ、ということは、忘れずにいたい。
庵野さんが言った「悪い伝統を乗り越えるための翼」という言葉が、頭の中でまだ響いている。翼を渡せる親になるためには、まず自分自身が何かを手放せているか、ということなのかもしれない。
自分への切実な問い
自分が子どもに渡そうとしているものは、「翼」か、それとも「自分への依存」か。





