BUTTER

  • タイトル:BUTTER 
  • 著者名:柚木麻子 
  • 出版社:新潮社

あらすじ:
木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく――。男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。

目次

「料理が好き」じゃない人間には、分からない世界がある

料理は、栄養を摂るための手段だと思っていた。
おいしければなお良いが、別にこだわらなくていい。
空腹が満たされれば、それでいい。

そういう感覚の人間は、決して少なくないはずだ。
忙しい毎日の中で、食事にそこまでのリソースを使えない。
お惣菜でも、外食でも、正直あまり変わらない。

でも、世の中にはバター一つにこだわる人間がいる。
産地を調べ、乳脂肪分を比べ、塩分の加減に目を細める。
それが、どういう感覚なのか、ずっと分からなかった。


「うまい!」は、正しいけれど足りなかった

妻は管理栄養士だ。
毎日、健康的でおいしい料理を作ってくれる。
「うまい!」と言って、食べる。

それで十分だと思っていた。
感謝しているし、愛してもいる。
でも、何かが噛み合っていない感覚が、うっすらあった。

外食を提案すると、むすっとする。
家事代行を提案しても、「自分で作るからいい」と言う。
節約志向だからかな、と思っていた。

でも、この本を読んで、少し違う見え方がしてきた。


料理は「家事」じゃなくて、「表現」だったのかもしれない

作中の女性たちは、料理に何かを込めている。
愛情、という言葉は少し違う気がする。
もっと個人的な、自己表現に近いものだ。

妻も、料理をレシピの研究対象として見ている節がある。
なぜこの食材を使うのか。どう組み合わせると味が変わるのか。
それを日々、ひっそりと実験しているようなところがある。

だとすれば、外食の提案は「休ませてあげよう」ではなく、
「その研究、今日はいらないよ」に聞こえていたかもしれない。
家事代行の提案は、もっとダイレクトに。


「うまい!」の先に、もう一言あった

美人とかエロい女は何度かヤルと飽きてくる、という言葉が作中にある。
下品に聞こえるけれど、妙に正直な観察だとも思った。
外見は消費されるが、料理の腕は蓄積される。

見た目の美貌だけでは、関係は深まらない。
すぐに下降が始まる。
でも、料理がうまい人からはなぜか離れにくい。

それは単に「胃袋をつかむ」という話ではないような気がする。
その人が何を大切にしているか、どんな感覚を持っているか、
料理という行為を通じて、少しずつ見えてくるからではないか。


「このバター、何?」と聞いたことがなかった

「うまい!」は正しい反応だ。
でも、研究している人間に対して、正しい反応は十分ではないのかもしれない。

「このバター、何使ってるの?」
「なんでこの味になるの?」
そういう一言が、もしかしたらずっと待たれていたのかもしれない。

社会は長い間、「料理ができる女はいい女だ」という価値観を作り上げてきた。
その価値観の中で、妻の自信は育まれているかもしれない。
そう気づいたとき、少しざわっとした。

納得もした。でも、完全には整理できていない。
ざわっとしたまま、今夜の食卓に向かう。
「これ、どうやって作ったの?」と、聞いてみようと思っている。

切実な問い

「料理で愛情を表現しようとしている妻に対して、私がすることは一体何だろうか?」

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