ミルトンモデル

 ミルトンモデルとは、催眠療法家として知られるミルトン・エリクソンが使っていた言語パターンを分析・体系化したものです。間接的でありながら、相手に効果的に影響を与えることができる言語パターンの体系として知られています。

 情報を回復させる、つまり具体化・明確化していく言語パターンである「メタモデル」に対して、ミルトンモデルは、情報をあえて曖昧にすることで、相手の潜在意識へパワフルに働きかけることを可能にしています。

 ミルトンモデルは、以下のような言語パターンに分類することができます。

  • 逆メタモデル
  • 前提
  • 間接的誘導パターン
  • アンビギュイティ(曖昧さ)
  • 付加疑問
  • ペーシングパターン
  • メタファー

 それでは、ひとつずつ見ていきましょう。

目次

逆メタモデル

削除:情報を集めさせる

 ミルトンモデルにおいて「情報の削除」と呼ばれるこのカテゴリーは、逆メタモデルの中でも、催眠に最も役立つカテゴリーです。

 削除:使われた言葉に詳細が大きく欠けているため、聞き手は自分の体験に関連のあることを、その空白に埋めて、自分なりの意味を探します。聞き手の内部体験に反することを言ってしまうリスクを負わずに、相手に何かを伝えることができます。

(例)私は、あなたが興味があることを知っています。
   その体験は、素晴らしい成長へ導いてくれます。

 たとえば子どもに「きっと、あなたなら分かるよ」と言うとき、「何が」分かるのかを具体的に言わなくても、子どもは自分の中で意味を見つけてくれることがあります。

 指示詞の欠如:主語や目的語にあたる言葉を明示しないことで、聞き手はそれを理解するために、自分自身の体験に関連のあることを空白に埋めて、最適な意味を探します。

(例)人はリラックスすることができます。
   これは簡単に学ぶことができます。

 不特定動詞:すべての動詞は、完全には具体化できません。聞き手は、理解するために自ら意味づけを行います。

(例)私はあなたに学んでほしい。

歪曲:意味論的不的確性

 複合等価:本来は無関係な二つの言葉が、関係があるかのように聞き手の反応を誘導する話し方です。行動と、相手から引き出したいステイト(状態)を結びつける際にも役立ちます。

 因果関係のモデリング・リンキング:原因と結果の関係性を暗示する言葉を用いて、まるで一方が他方を引き起こしたかのように、聞き手の反応を誘導します。その強さによって、3種類のリンク方法に分けられます。

a. 無関係な現象をつなぐ接続詞 例:そして・・・、すると・・・
b. 時間をつなげる用語 例:~する時、~しながら、~するうちに
c. 因果関係を述べる言葉 例:AだからB、A=B

 マインド・リーディング:相手の内部体験を、まるで知っているかのように振る舞う話し方です。具体的に語らないため、ラポール(信頼関係)を失うリスクを軽減してくれます。

 ロスト・パフォーマティブ(価値判断者の消失):誰がそう評価しているのかを明確にせず、評価的に述べる話し方です。

一般化:話し手のモデルの制限

 全称限定詞:例外や代わりの選択肢を排除する言葉を用いることで、その内容が一般的なことであると聞き手に思わせる話し方です。

 必要性/可能性のモダルオペレーター:特定の行動を要求したり、ほかに選択肢がないことを暗示したりして、聞き手を誘導する話し方です。

 前提:「すでにそうなっている」ということを前提にして話すことで、自然に相手をリーディングしていく方法です。次の章で詳しく説明します。

前提

 前提とは、「すでにそうなる、そうなっている」ということを前提にして発言することで、聞き手をごく自然にリーディングしやすくする話し方です。基本となる原則は、相手に多くの選択肢を与えながら、そのどの選択肢にも、あなたが望む反応を前提として含ませておくことです。前提を重ねることで、より強い作用を及ぼすこともできます。文章の中で何が前提とされているのかは、その文章を否定文にしても、なお事実として残っているもの、という見方で見つけることができます。

  • 時の従属節:~しながら、~するうちに、~した後で、~する間
  • 時の変化の副詞と動詞:すでに、まだ、もはや、いずれ、始まる、終わる、止める
  • 順序を表す言葉:最初に、次に、最後に、二番目に
  • ダブルバインド:あるいは、それとも
  • 意識の叙述語:知っている、認めている、理解している、わかっている
  • 注釈の形容詞と副詞:幸運にも、困ったことに、驚いたことに
  • 副詞と形容詞:簡単に、深く、興味深い、面白い

 たとえば「お風呂に入った後で、絵本を読もうね」という言い方は、時の従属節を使った前提の一例です。「お風呂に入る」ことと「絵本を読む」ことの両方が、すでに決まったことのように伝わります。

間接的誘導パターン

 ミルトンモデルのこのパターンを使うことで、明白で直接的な要求をせずに、間接的に相手から具体的な反応を引き出すことができます。

 埋め込まれた命令:直接的に指示を与えるのではなく、大きな文章構造の中に命令を埋め込むことで、聞き手に無意識のうちに行動を促す話し方です。

(例)リラックスすることはとてもいいことです。
   リラックスすることができます。

 埋め込まれた質問:大きな文章構造の中に、命令のような質問を埋め込むことで、聞き手は直接質問されたとは思わず、答えることへの抵抗が軽減されます。

(例)あなたがどんなことに興味があるのかなぁと思って・・・

 会話的要求:Yes/Noで答えられる質問の中に、あなたが望む相手の反応を織り込むことで、自然に相手の行動を促す話し方です。

(例)窓を開けられますか? / 喉が渇いたね・・・

 アナログマーキング:強調したいキーワードの部分を、声のトーンや速さなどで強調することで、聞き手の無意識に強く働きかける話し方です。埋め込まれた命令と組み合わせると、より強力になります。

(例)あなたは、リラ…ックス…することができます。(「リラックス」の部分だけ、少しトーンを落とす)

 否定命令:命令を否定形で伝えると、人は一般的に、肯定形の指示に対する反応をしてしまいます。見ること・聞くこと・感じることという「一次体験」には、もともと否定が存在しないからです。否定は、言語や計算といった「二次体験」にのみ存在します。

(例)すぐにはリラックスしないでください。

 たとえば「走らないでね」と言うと、子どもの頭にはまず「走る」イメージが浮かんでしまう、というのも、この否定命令の仕組みと同じです。

アンビギュイティ(曖昧さ)

 曖昧さとは、ひとつの文章や単語が複数の意味を持つときに生まれます。これは、意識の混乱や、状況を把握する力の一時的な低下を引き起こすことで、変性意識状態(トランス)へ誘導する重要な手段になります。聞き手は、ひとつのメッセージを複数の意味で受け取れるため、自分から積極的にメッセージへ意味づけを行う必要が出てきます。つまり、その人にとってよりふさわしい意味を持つ可能性が増えるのです。そして、無意識のレベルには、複数の意味がそのまま残されることもあります。

  • 音韻的なアンビギュイティ:同じような音に聞こえて、違う意味を持つ言葉
    (例)「自身」と「自信」/「創造」と「想像」など
  • 構文的なアンビギュイティ:文章の構造上、複数の意味が存在するもの
    (例)「トレーニング中のトレーナー」「話されている上司」など
  • 範囲のアンビギュイティ:動詞・形容詞・副詞が、文章のどこまでにかかっているのかが不明瞭なもの
    (例)美しいあなたのアクセサリー など
  • 句読点によるアンビギュイティ:文章の中に、突然ある対象を挿入することで、評価の対象がどれにあたるのかが不明瞭になるもの
    (例)「冷えたビールは最高だね、ジェシカ、大好きだよ」

付加疑問

 肯定文には否定形、否定文には肯定形の問いかけを語尾に付け加えることで、聞き手がより素直に反応しやすくなります。

(例)ですよね?
   そうじゃないですか?

ペーシングパターン

 ミルトンモデルを効果的に活用することで、相手の体験にペーシングしながら、望ましい方向へ円滑にリーディングしていくことができます。

 関連付け(意味論的不的確性):因果関係のモデリング・リンキングを行う方法です。先ほど紹介した3種類のリンク方法を、a→b→cの順に使うことで、効果的に活用できます。

a. 無関係な現象をつなぐ接続詞 例:そして・・・、すると・・・
(例)あなたは椅子に座っています。そして、ゆっくりとリラックスすることができます。

b. 時間をつなげる用語 例:~する時、~しながら、~するうちに
(例)あなたは深く深呼吸するうちに、よりリラックスし始めます。

c. 因果関係を述べる言葉 例:AだからB、A=B
(例)リラックスし始めているのを感じているということは、より大きな学びを得る準備ができたということです。

 活用:相手の状況や、いま起きていることすべてを活用しながら、別の体験へ誘導する方法です。

(例1)クライアント:「集中することができないんです・・・」
    カウンセラー:「集中できないことには集中できるんですね」

(例2)鳥の鳴き声が聞こえたら「今、鳥の鳴き声が聞こえましたね。そして・・・」と、関連付けを行う際に活用する。

 トゥルイズム(自明の理):一般的に否定することができない事実を述べることで、相手が受け入れやすくなる話し方です。

(例)あなたは深呼吸することができます。
   眠ることによって、疲れを癒すことができます。

 イエスセット:相手が「イエス」と答えるような質問を繰り返し行い、相手から「イエス」を引き出す方法です。相手を誘導する場合は、イエスを3回以上重ねた後に行うとよいとされています。

 たとえば「今日も学校楽しかった?」「お腹空いた?」「手も洗った?」と、自然に「イエス」が続くような会話のあとに「じゃあ、宿題から始めよっか」と続けると、すんなり受け入れてもらいやすくなる、というのもイエスセットの一例です。

メタファー

 メタファーは、催眠誘導を行う際はもちろん、比喩的なコミュニケーションにおいても有効です。

 選択的な制限違反(現実性の違反):現実的にはありえないような表現を使って、催眠状態へ誘導する方法です。暗喩や擬人化が、この方法にあたります。

  • 暗喩:人生は坂道だ。
  • 擬人化:星があなたに語りかけている。

 ※直喩は、メタファーには当たりません。「君の瞳は太陽のようだ」のように「ようだ」が入ると、現実性には違反していないからです。言い換えると、現実をただ描写しているだけになります。

 引用:引用という形を使うことで、話し手がメッセージの責任を負うことなく、相手に伝えたいメッセージを伝えることができます。聞き手は、そのメッセージの責任が誰にあるのかを意識的に確認することなく受け取ります。また、引用元によって権威付けをすることで、メッセージの信用性を高めることもできます。

(例)バンドラー博士は、「自由が全てである。そして、その残りが愛である。」と言っています。

 寓話・逸話・ストーリー・物語:現在の状態から望ましい状態へのプロセス、あるいは問題から解決に至る道筋を、間接的な表現で伝える方法です。相手は、意識的な抵抗感が軽減された状態で、メッセージを受け取ることができます。

 Isomorphic(同型)/Homomorphic(順同型)

  • Isomorphic(同型):同じような状況設定、内容に合わせたメタファー
  • Homomorphic(順同型):引き出したい相手のステイトに合わせたメタファー

ミルトンモデルの注意点

 ミルトンモデルには、ここで紹介したように多くのテクニックがあります。これらひとつひとつの作用は、比較的弱いものです。多くのテクニックを同時に、何度も重ねて使うことで、催眠状態へと誘導していきます。「否定命令だけを使えば相手を誘導できる」というわけではありません。

 また、催眠と聞くと、なんとなく催眠術師やヨガインストラクターのように、ゆったりと話すイメージを持つ方が多いですが、実際はそういうわけではありません。普通に会話をしながらでも、これらのパターンを自然に使うことで、相手を緩やかに催眠状態へ誘導することも可能です。

 当然、相手に怪しまれずに使えるようになるには、相応のトレーニングが必要です。

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