イチケイのカラス

  • タイトル:イチケイのカラス
  • 著者:浅見理都

あらすじ:有罪率99.9%といわれる日本の刑事裁判。しかし、その判決を下す裁判官たちのことを知る人は少ない。特例判事補の主人公を中心に裁判所で働く個性豊かな刑事裁判官や書記官の人間ドラマを描く。こんな人なら裁かれたい!? 裁判官が主人公のリーガル・エンターテインメント!!

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目次

悩み抜くことを、手放してはいないか

世の中では、「正しい答えをできるだけ早く見つけること」が評価されがちである。仕事でも子育てでも、迷っている時間は非効率だと言われる。判断が早い人、決断力がある人が、有能だとされる。

だから多くの人は、悩むことをできるだけ減らそうとする。専門家の意見や、教育書や、心理学の理論を参照して、「正解」に近いものを効率よく選ぼうとする。それ自体は、間違ってはいない。

ただ、ドラマ「イチケイのカラス」を観ていて、ふと立ち止まってしまった台詞があった。

悩み抜くこと自体が、ゴールである

入間みちおが、坂間千鶴に語る場面である。ほとんどの人間は、どうすればいいか本当は分かっている。それでも、まぁまぁのところで折り合いをつけて終わる。仕方ない、生活があるから、と。

けれど、悩んで悩んで悩み抜いて出した答えが、一番いい。そして、それが間違っていたなら、素直に謝ればいい。それだけのことじゃないか、と。

このセリフを聞いたとき、引っかかったのは「悩み抜いて出した答えが一番いい」という部分ではなかった。そこじゃなくて、「悩み抜く」というプロセスそのものが、ゴールとして語られていたことだった。

いい答えを出すことが目的なのではない。悩み抜くこと自体が、目的なのだ。この順番の違いに、妙に納得してしまった自分がいる。

育児という、悩み続ける営み

なぜこの感覚が、自分の中に強く残ったのか。理由をたどると、子どもと接する時間に行き着いた。

つい「教育上」「心理学的に」と、外側にある知識を先に持ってきてしまう自分がいる。けれど本来、そうした知識は参考以上の何かにはならない。目の前のこの子に、何を言えばいいのか。何をすればいいのか。いつ、どのタイミングで。

それを悩み続けること自体が、育児という営みなのではないか。正解にたどり着くことよりも、悩み抜く姿勢を手放さないことの方が、ずっと本質に近い気がしている。

それでも、悩んでいる時間なんてない

とはいえ、そう簡単な話でもない。悩んでいる時間なんてない、というのが正直なところだ。仕事があり、家事があり、他にもやるべきことは山のようにある。

一つひとつの場面で悩み抜いていたら、日常が回らなくなる。効率よく、ある程度のところで判断を下していかないと、生活そのものが立ち行かなくなる。この現実感は、否定しようがない。

ルールより、悔い改める姿勢

かと言って、悩むことを完全に手放してしまっていいのかというと、それも違う気がしている。

間違わないようにすることが大事なのではなく、間違った後にどう向き合うか、その姿勢の方が大事なのだと思う。犯した過ちに対して、罰の重さが明確に決まっていることよりも、関わった人間がちゃんと反省できるかどうかの方が、本質的な気がする。

ルールというものは、あくまで判断のブレを一定に抑えるための、最低限の土台に過ぎない。その土台の上に乗っているのは、倫理であり、悔い改める姿勢そのものである。ルールを守ること自体がゴールなのではなく、守ろうとする意識を持ち続けること。それが本当は問われているのではないか。

悩み抜くことを、選び続ける

結局、悩み抜くことを、選び続けるしかないのだと思う。効率よく答えを出せる場面と、時間をかけて悩むべき場面。その線引きすら、悩みながら決めるしかない。

正解に早くたどり着くことより、悩み抜く過程を手放さないこと。そして間違えたなら、そのときはただ、真摯に謝ればいい。それだけのことなのかもしれない。

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