【本の話は置いといて・しんしんさん#8】人生は長すぎる?「我を忘れる熱狂」に逃げたくなる現代人の生存戦略

目次

【導入】「推し」に救われるか、それとも操られるか。熱狂と子育ての交差点

朝井リョウ氏の『イン・ザ・メガチャーチ(『世にも奇妙な君物語』収録)』、村田沙耶香氏の『消滅世界』、そして山口未桜氏の『禁忌の子』。これらの作品を起点に、にったんとしんしんが深夜まで語り合いました。テーマは「ファンダム経済」から、不妊治療のリアル、そして「血の繋がりを超えた親の愛」まで。読めば、あなたも誰かと語りたくなるはずです。


第1章:のめり込むことの正体 ― ファンダムと「救い」

しんしん:『イン・ザ・メガチャーチ』、良かった。人が何かにのめり込むのはこういうことなんだろうね。昔で言うキャンディーズの親衛隊みたいに、アイドルがいなくなるなら自分には価値がない、とまで思い詰める熱狂的な人たち。その仕組みは今も昔も変わらないよね。

にったん:人を惹きつけるものには「のめり込む人」「仕掛ける人」「目が覚める人」がいる。その3つの立場がある中で、何が一番刺さった?

しんしん:仕掛ける側の国見の言葉だね。「夢中になって、我を忘れている方が人生は楽だ。我に返り続けたほうが、生きるにはこの世界は殺伐としているし、人間の寿命はあまりにも長すぎる」という言葉。これが僕ら夫婦の話にもリンクしてて。

僕は料理や読書、ボーリングと趣味があるけど、奥さんは「趣味がない」って言うんだよね。何かにのめり込むことがない。それって、今の忙しい子育ての時間が途方もなく長く、殺伐と感じてしまう原因なんじゃないかなと。それって正直、ちょっと不幸せな部分もあると思うんだ。

にったん:「推し」がいれば仕事も頑張れる、っていうのは原動力になるしね。でも、自分はそこまでのめり込むかっていうと、ちょっと引いてしまう部分もある。B’zは大好きやけど、広めるためにYouTubeで必死に活動するかと言われたら、そこまでは行かない。今のAKBの仕組みとか、秋元康先生が作った「のめり込みやすい構造」に、みんな乗らされてるんじゃないかって冷めた目で見ちゃう自分もいるんよね。

第2章:仕掛けられた「レール」と、自分軸の趣味

にったん:「楽やから頑張ってのめり込む」っていうのも、結局は誰かのレールに乗らされてる、操られてることなんかなって。自分はテニスが趣味やけど、人生を楽にするために頑張って趣味を見つけたわけじゃない。単純に突き詰めたいだけ。やってるときに「楽やな」とは思えへんし、どうすれば上手くなれるか苦労してるしね。

しんしん:熱中してるときはね。引いた目で見ないと充実してるかはわからない。

にったん:のめり込まされてるのか、自らのめり込んでるのか。そこには薬物に近い軽さがある気がする。例えばB’zの新曲を聴いて「自分の人生にどう活かせるか」という問いを立てられるならいいけど、考えるのが面倒になって「受けるだけ」になると、ただ操られてるだけになってしまうんかな、と。

しんしん:そう思う。目的が「追いかけること自体」になっちゃうんだよね。うちの奥さんもドリカムが好きで、子供が生まれる前は毎年ライブのアリーナ最前列に行ったりしてたけど、そういう熱狂の仕組みは今も昔も変わらない。ネットでそれがより顕著になっただけなんだろうね。

第3章:『消滅世界』と女性の価値への「爆弾」

にったん:村田沙耶香さんの『消滅世界』は、男女の分断がリアルやった。もし男性が人工子宮で子供を産めるようになったら、女性は自分に価値を見出せるのか? 「授乳できるから勝ち組」みたいな価値観で生きてる人は、その機能を失った瞬間にメンタルが崩壊してしまうと思う。この本は、そういう「女性としての機能」に価値を置いている人に対して、静かに爆弾を投下してるよね。

しんしん:「自信のなさを隠すために、私は子供を産めるんだ、子育てしてるんだ」と主張している人には、ものすごく刺さるし辛辣だよね。ある種の「呪い」でもある。

にったん:うちの妻は、子供を産んでるから偉いとは全然思ってない。でも、世の中には「私が頑張って産んだのに!」という論理にすり替えて、言い返せない男性を刺してしまう諸刃の剣を持ってる人もいる。それを失ったときに一番しんどいのは自分自身やのにね。

第4章:不妊治療と「選んでくる命」の話

にったん:不妊治療の話も、本質的には「なぜ子供が欲しいのか」という問いに行き着くよね。しんしんはどうやった?

しんしん:子供がいる未来が楽しいと思ったから。かわいい、ニコニコしてる、それが見たいだけ。2人目のとき、ちょうど保険適用になったけど、それまでは1回で70万円くらいかかってた。通院や注射も合わせれば、にったんが言うように「ヴォクシー1台分」くらいは使ったよね。出口も見えない、結果もわからない中で、この問いと戦い続けるのは本当に過酷だよ。

にったん:山口未桜先生の『禁忌の子』も良かった。血の繋がりよりも、その後の行動や過程で示す愛こそが「親の愛」なんだと考えさせられた。最後に主人公のお母さんが放つ言葉……自分が同じ立場やったら言えるかなって。

にったん:不思議なことに、うちは妊娠前に「胎児記憶」の映画を観に行ったんよね。空の上からママを選んで滑り台で降りてくる、っていう話。そしたら後日、うちの次男が「本当はお兄ちゃんより先に僕が来るはずやったのに、順番譲ったんや」って話し始めて。子供は、自分たちの意思だけで作ったんじゃなくて、半分は子供たちが選んで来てくれたんやなって思えるようになった。

第5章:サードプレイスとしての「パパ育コミュ」

しんしん:子育てを通しての学びは本当に深い。こないだ息子が嫌がってた歯医者で治療を頑張ったとき、「パパ、1万円ちょうだい」って言われて(笑)。結局ゲームを買ってあげたんだけど、その瞬間にギュッとしてくれるだけで「ああ、子供がいて良かった」って思える。人それぞれだけど、僕はそう思う。

にったん:今のしんしんの言葉、すごくいい。「私はこう思うけど、あなたに強要はしない」というスタンス。こういうコミュニティがなかったら、「自分の考えでいいんかな」ってずっと不安やったと思う。でも、ここではそれぞれ違う価値観を持って集まってて、お互いを認め合える。だから「自分はそのままでもいいんや」って思えるんよね。

しんしん:職場やとそうはいかないもんね。同調圧力があって、違う意見が言いにくい。だからこそ、こういうサードプレイスが大事。自分の価値観を言える場所があるからこそ、また日常に戻れるんだと思うよ。


【ハイライトセクション】熱狂のやり取りを再現

しんしん:(『イン・ザ・メガチャーチ』を読んで)夢中になって我を忘れている方が人生は楽だ、っていう国見の言葉。これが一番刺さった。我に返り続けるには、この世界はあまりに殺伐としてるからって。

にったん:それ……めちゃくちゃ重いな。でも、それって「操られてる」ことの裏返しでもあるやん?

しんしん:そうなんだよね。仕組みに乗らされてるんだけど、それが楽しければいいっていう人もいる。でも、にったんみたいにテニスを突き詰めたいっていうのは、誰かに用意されたレールじゃないよね。

にったん:そう。テニスやってる時は「楽」どころか苦しんでるしな(笑)。でも、その「苦労して突き詰める楽しさ」と、単に「受けるだけの熱狂」は別物やと思うんよ。

しんしん:結局、自分なりの価値観を見つけて、その「のめり込みの輪」から一歩抜けることが大事なのかもしれない。職場ではなかなか言えないけどね(笑)。

にったん:ほんまに。職場やと「TPO」があるからな。ここではみんながバラバラの価値観を持ったまま集まってる。それが、俺らにとっての救いなんやろな。


深夜12時半。日付が変わる頃、対談は「TPOをわきまえて(笑)」とお開きの時間を迎えました。本を読み、語り合い、自分を再発見する。そんな濃密な時間を、あなたも一緒に過ごしてみませんか?

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