優先的表象システム(VAKOG)
私たち人間は、自分自身や生きている世界の五感の基本的なモダリティ(様相性)、見る、聞く、感じる、嗅ぐ、味わう、を通して、体験しています(一次体験)。この感覚モダリティによって、人は知覚入力された情報をコード化し、体系化し、記憶し、意味づけします。これを表象システムと呼びます。感覚入力は、内部処理(再表現)されると、オリジナルの知覚入力の類似したもの、あるいは合成したものを構成する相関の感覚表象(地図)に翻訳されます。「現実」と「私たちが認識する現実」は、同一ではありません。このことを覚えておくことは、大変重要です。「地図は領土ではない」ということです。
それぞれの表象システムの知覚構造は、より小さな個別の要素で構成されています。これをサブモダリティと呼びます。体験は、サブモダリティレベルで表現され、コード化され、記憶されます。人は、任意のタイミングでアクセスできる途方も無く豊かで潤沢な全システムの感覚情報を持っています。感覚入力に関しては、様々な方法で中枢神経によるフィルターがかかります。そして、それにより、どんな場合も限られた量の感覚情報を潜在意識に取り込むようにしています。このフィルタリングのメカニズムがシステム化された作業・・・削除・歪曲・一般化を通して、知覚入力を遮ります。この作業は、総称して、ユニバーサル・モデリング・プロセスと呼ばれています。
この神経系のフィルターがなければ、人は絶え間なく溢れる情報の洪水に飲み込まれてしまうことでしょう。これらのモデリング・プロセスは、人がその体験を整然と維持できるように機能しています。従って、意識的な体験を構成する知覚は、必然的にどんな瞬間においても、一定数の知覚の識別に制限されます。
ユニバーサル・モデリング・プロセスは、人間の創造性に大きな可能性と機会をもたらします。そして、同時に人がどのようにして制限あるいは問題を持つようになるのか、その体験の様々な角度から説明もしてくれます。知覚体験の表象を整ったチャンクサイズにするためには、多大な感覚入力の削除が必要となります。
全ての知覚は、複数の知覚に基づいており、それは「現実」ではありません。引き出された内部表象に基づいて正確であるとはいえます。しかし、それは不完全なのです。
多くの人はそれぞれ自分自身にとって価値の高い表象システムを持っています。これを優先的表象システムと言います。
プロのコミュニケーターとして、相手にとって価値の高い表象システムを使うことにより、相手がよりよく聞く・・・あるいは見ることを可能にします。それは同時にラポールと理解のある雰囲気を作ることでもあります。そして、TDサーチもより容易にします。
入力・処理・出力という3つの異なるプロセス経路があることを理解することによって、人は世界と関わるストラテジーとして、どのように聞き、どのように何かを話したいと思い、頭の中にどのように映像を描き、目標をどのように捉えているのかなどが理解できるようになります。
相手が優先する表象システムにペーシングすること、そしてそこから他の表象にオーバーラップさせていくことは、ラポールを築き、より望ましい状態へ誘導する有効な手段の一つです。
表象システムの言葉
Visual 視覚(見る)
・現れる、明確な、明るい、描く、注目する、目を見張る、キラキラ・・・
Auditory 聴覚(言う/聞く)
・話す、発言する、耳を傾ける、黙る、静か、響く、奏でる、ガタゴト、パタパタ・・・
Kinesthetic 身体感覚(感じる/行う)
・触れる、映る、流れる、温かい、手がかりをつかむ、硬い、スッキリと、ふわふわ・・・
Olfactory 嗅覚(嗅ぐ)
・香る、匂う、芳しい、クンクン・・・
Gustatory 味覚(味わう)
・甘い、しょっぱい、もぐもぐ、ガツガツ・・・
Unspecified, Universal Words 不特定な言葉、普遍的な言葉
・用意する、素晴らしい、美しい、素敵な、幸せな・・・
Overlapping オーバーラップ
様々な感覚表象で表現をすること
・目の前に広がる海の光景が映ると、静かな波の音が聞こえてきます。
それとともに爽やかな潮風を感じます。
Translation トランスレーション
同じ意味を持つ言葉を感覚表象に合わせて言い換えること
・理解する ⇒V:明確になる A:心に響く K:腑に落ちる
Synesthesia シネステジア
通常、五感は独立しているが、一つの感覚だけでなく、異なる感覚も生じる知覚現象。音や音楽を聴いたときに色を感じる「色聴」や、文字や数列に色が見える、あるいは第三者が誰かに触られているのを見て身体感覚を感じる「ミラータッチ共感覚」などがあります。
◆視覚優位の特徴
●傾向
・頭の中でイメージを思い描きながら、話をする傾向がある。
・色や形に関する表現が頻繁に行われる。
・「~が見える」「~と想像できる」といった、いかにも目の前に映像があるような臨場感あふれる表現を得意とする。
・早口で、話をする際、ジェスチャーで自分のイメージを表現することが多い。
・過去の記憶や未来像も映像的なイメージを伴うことが多い。
●よく使う表現
見る/描く/映す/ひらめく/暗い/明るい/明確な/注目する/鮮明な/ビジョン/見通し
『輝き』に関する擬態語・・・ピカピカ/キラキラなど
『色』を使った表現・・・青い空/金色の夜明けなど
『見た目』の表現・・・輝く/透明/まぶしいなど
『目』に関する慣用句・・・目に物言わす/長い目で見る/目に入れても痛くないなど
●洋服選び
色にこだわる/スタイル重視/自分に似合っているか試着/他の服とのコーディネートを楽しむ/個性的な自分らしいファッションを好む
●付き合うコツ
目で見て分かる表現を使いイメージしてもらえるかどうかが鍵。相手の思い描いているイメージを聞き手は推測し、イメージしてもらいやすい説明的な表現を選んで言葉にしよう。
◆聴覚優位の特徴
●傾向
・音や言葉に敏感(聞こえる音、言葉を使って内容を理解する、文字を読む)
・擬音語「ガチャガチャ」などの物音や、音の大きさを表現するのが得意。
・「~が聞こえる」「~を話す」などの述語表現を多用する。
・物事をとても論理的に捉えることができ、自分の内側との対話を重視しながら会話する。
・相手の話を理解するのが早く、聞き上手だが、細かな表現方法や言い回しが気になる。
・静寂や、綺麗な音が大好き。
●よく使う表現
聞く/言う/話す/歌う/説明する/うなる/ささやく/テンポ/声/音/発言など
『音』に関する擬態語・・・シーン/ザーザーなど
『音の大きさ』を使った表現・・・大声/静かな/騒がしいなど
『トーン』を表す表現・・・甲高い悲鳴/低い声/波長が合うなど
『耳や口』に関する慣用句・・・耳にタコ/口は災いの元など
●洋服選び
口コミや評判を重視する/店員さんに特徴をよく聞く/流行に敏感/色や形などの要望を的確に伝える/個性的な自分らしいファッションを好む
●付き合うコツ
物事を筋道だてて論理的に話す。客観的な数字やデータを使って示すのも有効。声のトーンも相手に合わせてあげる。言葉、言い回し、文法、単語に気を配る。
◆身体感覚優位の特徴
●傾向
・言葉や体験を身体の感覚によって受け止め、味わってから言葉にする傾向がある。
・上記ゆえに、ゆったりとしたテンポで話したり、返答までに少し間が空くことが多い。
・自分の感覚を大切にした表現が得意。
・自分や相手の体に触れるような仕草が多い。
・表情が豊か
・言葉以外で相手の感情を察することが得意
・自分の気持ちを伝えることが得意
●よく使う表現
リラックス/緊張/のんびり/堅い/柔らかい/さわる/感じる/など
『温度』に関する表現・・・温かい/冷たい/冷えるなど
『材質』に関する表現・・・ふわふわ/ガチガチなど
『気持ち』を表す表現・・・嬉しい/イライラなど
『味』『匂い』に関する表現・・・美味しい/苦い/フルーティなど
●洋服選び
・素材や伸縮性にこだわる/肌触りを入念にチェック/試着して着心地を確認する/個性的な自分らしいファッションを好む
●付き合うコツ
相手のゆったりとしたリズムに合わせて話をする。相手の身体感覚を心地よくさせる表現を使ったり、感情豊かに話をする。実際に触れてもらったり、試してもらう。