直木賞候補作の話から
「踊りつかれて」の読後感想から…
しんしん:最初、冷たいキレッキレなナイフを突きつけた感じはあったんですけど、最終的にはちょっと違う方向に話が進んでますね。直木賞の選評委員のコメントを見たんですけど、コメント通りかなという印象で。
内容はとても面白かったんですよ。本としてはすごく面白いし、ああいう展開になっていったのはそれはそれで良かったと思う。最初のあのセンセーショナルな部分が、実はすごく怯えながらやってたっていうふうに大きく変化してますけど、それだったらすべての話のつじつまが合う。でも文字がゆえに、その辺の感情が伝わってこないんですよね。ブログという設定だから。ブログの裏側は実はそうじゃないんだよっていう、そこがうまく伝わればよかったなと。本としてはすごく面白かったです。
にったん:そうですね。個人的には確かに最後、もっとあの狂って終わってほしかったなっていうのはあって。ネタバレにならないようにするのが難しいんですけど、「いい話か」ってなってしまったのがちょっと残念やったかなというところはありましたね。
なんかもっと最後、むちゃくちゃで誰も救われへんよみたいな話になったら「うわー」って思うんやけど。問題提起自体がSNSでの炎上とか誹謗中傷って話やったから、自分もそういうことはちょっとどうかなって思うし、誹謗中傷とかしてないから、そういう人たちがちゃんと考えてSNSやれよって強烈に思わせてくれるような作品なのかな、と期待してしまって。勝手に期待した自分も良くなかったとは思うけど、やっぱりSNSについてちゃんと考えないといけないよな、とはすごく思いました。
同じ塩田武士さんが別の切り口で同テーマを書いてくれたら、いいかなっていう。次の作品にちょっと期待しちゃいますね。
しんしん:週刊文春の連載だったんですよ、これ。その時点で結構制約もあるんですよね。
にったん:そうですよね。確かに塩田さんがどういうふうに作品がスタートしたかの裏話をされてたのを読んで、面白そうと思って手に取ったんですよね。
熟柿の話
にったん:あとは熟柿を読みました。あの辺りから読んだかな。プライズもあともうちょっとで終わりそうなんですけど。
しんしん:熟柿は終わり方は良かったと思うんですよ、僕は。ただ途中がハチャメチャすぎてちょっと入ってこなかったですね。そんなことあるかいと思いながら。コンビニ人間ぐらいの不自然さがあったというか。
にったん:そう言い過ぎかもしれないけど、なんか一個一個、主人公がこんなに西にどんどん行く理由ってあんまなかったんかな、あったんかなっていう。よくよく読めばあるのかもしれないけど、こんな人生を歩む意味があったんかなっていう感じですよね。
しんしん:お金が盗まれたりとか、物語のためにやったんかなっていうか。主人公の発想が何か非人間的な部分がちょっと大きかった。そんなことしても何にもならないでしょ、みたいに思っちゃって。
にったん:キャラクターに若干のぶれは感じましたね。保育園にふらっと行って会えるんじゃないかと思う感覚はすごくわかるんですよ。親として何かするとこうなるよな、って思える部分はある。でも行く先々で友達ができてどうのこうのって話は、こんなに苦労させる必要あったんかなとは思いました。
ただ、作品として子どもといる時間っていうのは当たり前じゃないし大事にしないといけないよな、っていうのはすごく感じましたね。「熟れた柿が落ちてくるのを待つ」って、人生ってそういうものやなっていうか。すぐ取りにいってしまうじゃないですか。そういうことは気をつけないといけないなっていうことは、教えてもらえた気がします。
しんしん:あらすじ見るとすごくドキドキするんですよね、マジかよみたいな感じで。
にったん:ただ読んだらマジかよだったね。最後の衝撃の事実も、これが衝撃の事実なの?みたいな。もっと強烈なこないとちょっと割に合わないっていうか。ミステリーをちょっと読みすぎてるのもあるかもしれないけど、それぐらいの事実なの?っていう拍子抜け感はありましたね。
有里佳の話
しんしん:次は「ありか」かな。これは結構良かったですね。
にったん:なんか自分には刺さらないんじゃないかって言われてたけど、良かったと思いました。娘がいる父親には刺さるんじゃないかな。
しんしん:ちなみに78歳のうちの母親にも、Audibleで設定してこれどうぞって言ったら「良かったわ。あんちゃん良かったわ」って言われました。誰も傷つかないのに、でも傷ついてる。よかったですよね本当に。
にったん:うちの妻が結構この主人公に近くて。なかなか自分の意見が言えなくて、お母さんの意見に逆らえないところが結構あるんですよ。義母がはっきり意見を持ってはるから、その中で自分の意見を表現できなかったり押さえつけたりって。詰まったときに見てたりするんで。
最後にそれが解けて、ちゃんと自分の意見を言えるようになるところが出てくるじゃないですか。そこが多分、瀬尾まいこさんの情熱がこの本全体にすごく感じられる部分で。「これまでの私の人生を全部込めたと言い切れる作品を書きました」ってどこかでおっしゃってたのを読んで、なるほどなってすごく思いましたね。
しんしん:いわゆる毒親みたいなのが出てくるわけですけど、結構多いと思うんですよ。あれほどのレベルじゃなくても、母親から言われた一言がなにげにずっと残ってる、っていうのを扱ってる作品も多くてですね。その中でも、娘が健気に頑張るわけですよ。髪も巻いちゃうわけですよ。義理の弟がサポートしてくれたりとかね。
にったん:ひどい旦那もいるんかなって思ったけど、いるんですよね現実に。いなきゃそんな話出てこないので。リアリティがある。瀬尾さんにそういう経験があるんかなとか思ったりして。作品の構成どうのこうのというよりか、分析の母みたいな感じで自分の経験からくるものがすごくあるんやろうなっていうのがわかって、それがめちゃくちゃ良かったですね。
明け星の話
しんしん:さっきちょっとお話しましたけど、明け星の話をしましょうか。今日の一番かもしれない。どういう表現が一番いいんだろう…壮大で荘厳で厳かで、ものすごく悲しいお話なんだけど、なんだろう、幸せな気持ちになるっていう。AIの話といえばそういう話で、報われない話です。
にったん:良かったですよね。
しんしん:湊かなえ先生が終始泣いてたっていうのもわかります。ほんとにこの人天才だなって。
ただ、名前は出さないけど、とあるYouTuberの人がこれを「ヤバいミステリー」として紹介してたんですよ。大変申し訳ないんだけど、ミステリー作品として紹介してほしくない。そんな安っぽく触れてはいけない作品だと思って。
にったん:もうこの作品の大ファンですよね。
しんしん:大ファンです。3周目もいきたいですね。2部制なので前半のノンフィクション、後半の小説という流れ、まだそっちもいけてないので。
声優とAudibleの話
しんしん:万人に勧めていい話ですね。モチーフが安倍さんの銃撃事件と新興宗教の話なんですけど、はっきり言ってその話はおまけな感じがして。もっともっと違うヒューマンドラマというか。
にったん:でもそれはそれで、こんなふうになるんやっていうのが垣間見えて面白かった。悲しかったっていうか、苦しかった切なかった、っていうか。ちょっと脱線するけど、Audibleで明け星を読んでるナレーターのお2人さんが超有名な大人気声優さんで、それもすごく良かったですよ。
しんしん:耳が幸せっていう感じですよね。ただ僕、声優さんあんまり知らないんで。
にったん:もう損してるよね。この2人が読んでるってだけでもワーッていう感じで、それはそれで幸せでした。そう思うと、アニメとか触れた方がいいんですかね。
やっぱり自分は声のトーンとか、意外と聞き分けたりするのが単純に趣味で好きやから見てるんやけど。
しんしん:難しいとこやね。今奥さんが葬送のフリーレンを観てて、フリーレンの声の人はちょっと物静かな感じで。
にったん:もしかしたら他の声もできるかもしれないけど、やっぱり難しいな。Audibleにするとその声優さんの良さがちょっと出にくい部分はあって。作風とのマッチが合ってるかどうかでかなり変わってくる。
贖罪はすごく自分は良かったです。生産もお好きな感じやけど、上手に作品はちょっと扱ってるテーマは割とディープやのにポップな感じで書く。その感じを演出できるっていう。そういうマッチがあればいいけど、単純に声優さんってだけやったら、この人これやったんやみたいな演技がやっぱり声優さんは需要やから。Audibleではあんまり演技ができないから、純粋な聞き取りやすさっていうのは違いますよね。
しんしん:だから世界99良かったんだよ。
にったん:セブンの方の声優さんはちょっと知らなかったけど聞き取りやすかったし、なんかぺころの声とかかわいかったし。
湊かなえ作品について
しんしん:湊かなえ作品はAudibleで俳優さんが朗読してたりしますね。藤原竜也がリバースを、北川景子が落日を、Nのためにも…その中で湊かなえ作品じゃないけど、贖罪が良かったですね。小池栄子が。
にったん:めちゃくちゃ良かった。
しんしん:聞き取りやすくて、作品がめちゃくちゃ面白かった。
にったん:映像化もされてますよね。小泉今日子がお母さんの役で、娘が亡くなったところを見たか見せないかみたいな話で。同級生の女の子がその一言に縛られてるっていう話ですよね。ドラマはちょっと正直しっくりこなかったんですけど、湊かなえさんやったらもうちょっと違うラストな気がするから、小説も読んでみたい。
しんしん:告白は本読みました。すごく良かった、まさに代表作と言っていいですよね。ただ、他の人にも湊かなえ作品を勧めると、苦手っていう人もいるんですよ。告白の印象がとても強くて、ものすごくイヤーな感じ、じっとりくるような。ずっと体調が悪くなっていくような。それは僕は大事なんですけど、あれをベースにして明け星を紹介してほしくないんですよ。
にったん:それはそうですね。全然違う話やから。母性も聞いてみたいな、まだ聞けてないので。
しんしん:Audibleで戸田恵梨香が朗読してますよ。気になりますよね。
消滅世界の話
しんしん:湊かなえと村田沙耶香をかけるようなことが続いた後に、消滅世界は良かったですよ。
にったん:今度映像化するんですよね。
しんしん:もう終わってるみたいですね、確か。
にったん:終わったそうで。この秋ぐらいに始まってもう終わってて。だから今どこでも見れないんですよ。ネットにも上がってないし、映画館でもやってないし。どういうことやって感じで。
消滅世界は、人工授精が当然になった世界の話で。だから性行為で子どもを作るのが「なんて汚らしい」っていう常識ができてる。人工授精できるんだから、なんでわざわざって。主人公はその性行為によって生まれてきたから、自分は汚らしい結果として生まれてきたんじゃないかって悩まされる。
でも完全に人間がそういうふうになったわけじゃなくて、性行為っていうのに興味がある人もちらほらいるのよ。
しんしん:フィックスっていうのがあるらしいぞ、みたいな感じで。
にったん:でもそれが良いものとして広まってないから。例えば男女がどっかでそういう雰囲気になってやってみようかってなるけど、「これの何がいいの」ってお互いになる。でも女性の子はちょっといいかもってなる。その男性との実際の行為よりも、2次元のキャラクターや人形の方が「むしろこっちのが自然かも」みたいな感覚がある。でも社会的には汚らしいものって言われてる。
その女性主人公のお母さんは、女性と男性が愛し合って子どもを作っていくのが本能よ、みたいなことを主人公に植え付けてくる。その狭間で揺れるんですよ主人公がね。
しんしん:なるほど、なるほど。主人公の女性が、母親がその行為によって生まれたから、母親はそれを刷り込むわけだ。
にったん:社会全体はそれは汚らしいこととしてる、っていう感じのストーリーで、どんどん人工授精の成功率が上がって実験都市っていうのも出てきて。
しんしん:男性も人工子宮をつけられるようになるんですよね。
にったん:そうすると女性は要らなくなる。男性が出産できると。その中で、女性だけがしんどい思いをしなくてもいい、女性の価値をどこに置くのかみたいな話になってきて。家族っていう概念がなくなるんですよね、全員がお母さんになるっていう。
しんしん:いやそれいいね。
にったん:そうなんですよね。これ読んだらちゃんとそのプロセスがあって、子どもが全員の子どもになる。そんな世界があってその中で主人公がなんじゃこれってもがき苦しむ。そういう世界になっていったときにどう考えるのかっていう。
しんしん:だからちょっと世界99の下書きみたいな感じになりますね。
にったん:そうそう。地方でも男女平等って言ってるけど、みんなこれを果たして本当に受け入れるのかっていう話を、そういうディストピアとして描いてるから、自分は何か思って。うちが不妊治療で生まれてるから、多分その技術が出始めた頃はなんてことだって言われてたんですよね。でも子どもが欲しい人にとっては藁をもすがる思いがある。それが進みすぎてそっちがメインになる世界っていう話ですよね。
しんしん:そうかそうか。
にったん:なんか人工的にさらに安定してとかいうところもあるし、行き過ぎたらみんなどうなっていくかわかりますよっていう。この間妻ともその話をして、改めてそのセックスっていうものについてケアするっていうことができたんですよね。
自分はその行為自体が好きにならないと、男性としてなんかもやして、妻を見る目が何か悪くなるっていうか、パートナーシップがあんまり良くならないんじゃないかと思って、頑張って好きになろうとしてたけど。そんなに好きじゃないんかなっていうことに気づいて。
しんしん:それでもいいんじゃない。
にったん:それも一応妻には軽く伝えたんですけど、「それでもいいんじゃない」ってことで。なんか諦めるでもなく、頑張って好きになろうとか楽しもうとかせずに、自然体でいいかなって思ったんで逆になんかよかったなっていう感じでしたね。世界99の何か悩みが、消滅世界で消滅したっていう感じですね。
しんしん:なんかふに落ちたっていうか。
にったん:そういう感じでしたね。自分はそういう意味で世界99の次に消滅世界がいいですよっていう順番ですね。


