
- 著者:中山 七里
- 出版社:宝島社
あらすじ:マンションの13階からフックでぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。これが近隣住民を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の凶行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに……。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の正体とは? どんでん返しにつぐどんでん返し。最後の一行まで目が離せない。
ミステリーは「娯楽」でしかない、と思っていた
ミステリー小説は、どこかで「学びとは別枠」のものだと思っていた。
謎解きやどんでん返しを楽しむ、いわば頭の体操のようなもの。
社会問題を扱い始めると、急に説教臭くなる印象もあった。
だから正直、積極的に読むジャンルではなかった。
そんな前提があったから、
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という、いかにもミステリー然としたタイトルにも、
大きな期待はしていなかった。
それでも、この作品は引っかかった
それでも読み進めるうちに、
「あ、この視点はなかったな」と思わされた。
物語の軸にあるのは、刑法39条という制度。
責任能力を問えないとされた人間が、
重大犯罪を犯した場合の扱いだ。
制度として知ってはいた。
理屈としても、理解できなくはない。
けれど、物語の形で突きつけられると、
理解と感情が、きれいに分断される。
自分の立場が変わると、見え方が変わる
もし、自分に子どもがいなかったら。
「怖い話だな」「世の中にはそういう人もいるんだな」で、
どこか他人事のまま終わったかもしれない。
でも、今は違う。
自分の子どもが、理由もなく殺される。
そして加害者は、責任能力なしと判断され、
比較的早く社会に戻ってくる。
そう想像した瞬間、背筋が冷えた。
刑法39条が正しいかどうか、という話ではない。
正しさとは別の場所で、
心がまったく納得していない自分がいた。
「罰すればいい」わけでもない、という違和感
では、重罰にすればいいのか。
終身刑や死刑なら、心は晴れるのか。
そう考えてみても、答えは出なかった。
どれだけ厳しい罰を与えても、
失われた命は戻らない。
復讐が完了したところで、
悲しみが消えるわけでもない。
残るのは「子どもを失った」という事実だけだ。
それでも、法律は必要だという現実
とはいえ、「ごめんで済んだら警察はいらない」。
そんな極論も、やはり現実的ではない。
ルールがなければ、
人は簡単に越えてはいけない一線を越える。
法律を整えることも、
制度を議論することも、もちろん重要だ。
それがなければ、社会は簡単に壊れる。
ただ、この作品を読んで、
それと同時に考えずにはいられなかった。
そもそも、犯罪をしない社会とは何か
法律があるから、盗まない。
法律があるから、殺さない。
それは本当に、平和と言えるのだろうか。
取り締まりが忙しい社会より、
警察が暇で仕方ない社会のほうが、
よほど健全なのではないか。
そんな理想論が、頭をよぎった。
犯罪を起こさない「マインド」。
人を傷つけないで済む感覚。
それをどう育てるのかは、
正直、よく分からない。
幼稚園で習ったことに、戻るしかないのかもしれない
周りの人を思いやる。
自分がされて嫌なことは、しない。
幼稚園で教わったような話だ。
でも、その「当たり前」すら、
だんだん難しくなっている気もする。
技術は進歩しているのに、
心はどこか幼く、
本能に引きずられているようにも感じる。
ミステリーなのに、心が痛んだ理由
この作品は、答えをくれない。
制度をどう変えるべきかも、
正解の倫理も示さない。
ただ、読む側の立場を揺らしてくる。
ミステリーは娯楽だと思っていた。
けれど、これは「考えさせられる」というより、
「考えずにいられない」作品だった。
法律とは何か。
正義とは何か。
そして、
自分はどんな社会で、
どんな親でありたいのか。
読み終えたあと、
その問いだけが、
静かに残った。




